新気功理論の授業を受けて

 秦先生の新気功理論の授業は、指導員Ⅰの理論の授業の中で、中医学、経絡のあとに行われる。新気功理論は秦先生が東洋医学博士号を修得した際の博士論文の一部である。従来の中国の伝統的な気功理論や、少林寺の気功理論をふまえた上で、かつて材料化学の研究者であった秦先生が、「気」について、科学的に説明しようと試みた研究の成果であり、東洋の哲学(老子の道、禅、陰陽の太極、等)、西洋の科学(物理学、数学、材料科学、等)、医学、心理学など、さまざまな関連分野の知見をもとに、新しい気功理論を確立されたものである。

 授業は宇宙の話から始まった。秦先生は論文の中で、多次元宇宙理論を発表されている。現代科学の宇宙理論と比較すると、秦先生の宇宙理論の特徴は大きく2点ある、と説明された。
1点目。現代科学では、宇宙は11次元であるとしているが、秦先生は、宇宙は9層10次元であると提案されている点。その根拠は、無限循環という東洋の思想に基づいている。現実的に数字は0~9しかない。これもまた無限循環の一つの現れとのこと。
2点目。東洋の哲学では、宇宙は気から誕生すると考えられていて、現代科学では、宇宙は無から誕生すると考えられているが、秦先生の新気功理論では、虚子というエネルギーが局所的に集まることで、宇宙が誕生すると説明されている点。虚子とは秦先生の定義した概念で、粒子ではなく、エネルギーであり、全てのエネルギーの最小単位であって、気も虚子であるという。現代科学では虚子を観測することはできないが、理論上ではその存在を証明できると。秦先生曰く、「現代科学では、宇宙は「無」から生まれ、膨張していると説明しているが、「無」とか「無から有が生まれる」という概念は、老子の道の考え方である。ここに「無」を入れない場合、神様を入れるしかない。それでは宗教である。つまり「無」について、まだ科学的にわかっていないということがわかる。新気功理論では、宇宙の始まりは0次元であり、虚子で説明できる。多次元理論の一番重要なところは0次元であり、まだ物質世界になっていない、エネルギーの世界という意味。「無から有が生まれる」という東洋の哲学を、現代科学で説明すると、物質は存在しないが、エネルギーは存在すると説明できる。そして、宇宙の成長発展は、東洋思想の無限循環理論で説明できる。現代の科学が間違っていると言っているのではない。現代の科学でもわかっていない、観測できないことがあり、その部分を新気功理論では説明できると考えている。」
 秦先生曰く、新気功理論の多次元宇宙理論の大きな特徴は以上の2点である。

 続いて、「気」という、現代科学で測定できない世界の現象を説明するために、秦先生は現代物理学を応用して、陰性物理学という理論を構築されている。宇宙の誕生を説明する際にも登場した、「虚子」という概念を考慮すると、全ての物事に陰と陽の二つの世界が存在するという理論である。全ての世界(宇宙)=目に見える陽性世界+目に見えない陰性世界から成り立ち、全ての物質=陽性物質(目に見える粒子)+陰性物質(目に見えないエネルギー)から成り立ち、生命=粒子の躯体(陽性・目に見える)+虚子情報波(陰性・目に見えない)の霊魂体であるとしている。陰性世界は我々の現代科学では観測できないが、理論上は、エネルギー、粒子、光、波、磁場、等の物理学の概念を用いて説明できる。そして、目に見えないエネルギーは、我々人間の五官(中医学でいう五感のこと)では感知できないが、脳では感知できる。この気を感知する脳の能力を、潜在能力と呼んでおり、気功や瞑想によって開発することができるということである。
 

秦先生の新気功理論は、現代科学の宇宙理論や物理学や量子力学等の知識に基づいて、気を説明されている。数式がいろいろ出てくるので、一般人の私には理解しきれないところもある。また、私は秦先生以外の気功の理論を学んだことはないので、正直なところ、秦先生の新気功理論の新しさや価値を十分に理解しているとは言いきれない。しかし、今まで知らなかった分野の知識が増えたし、宇宙に興味を持ったことで、私を取り巻く世界の辺縁が広がったように感じる。とても大づかみな理解であるが、気の本質は、全てのエネルギーの最小単位であり、我々の気は宇宙のエネルギーとつながっているという理論から、気功の大事な要素である「宇宙の気と交流する」「天の気と交流する」という意念が以前より鮮明になった。気功を練習する意欲が以前よりも湧いたし、気を活用して生きることができたら面白そうだと思うようになった。

最後に秦先生の思考の特徴として、「物事の本質は何か?」「さまざまの現象の中に潜む法則性は何か?」ということを常識にとらわれずに細部まで追求し、かつての専門分野であった、物理学、材料化学の知識・言語を用いて説明していく、という点があると思う。私は一般人なので秦先生の授業を受け取ることで精いっぱいであるが、宇宙や物理学や医学の最先端に通じている方々ならば、より面白い議論ができるのかもしれないと秘かに思っている。