認定旅行を終えて
偶然ではなく、全てが必然と思えるような思い出深い旅となりました。
初日、演武のために到着した早朝の少林寺は、澄み切った空気に柔らかい光が降り注ぎ、ここが特別な空間だと一瞬にして感じられるような聖なる場所でした。一人の参加者がふと不安な眼差しで緊張を訴えましたが、この場の力をいただくことで乗り切ることができました。しばらくして扉が開き、管長がお掛けになる美しい椅子が用意され、御尊顔を拝することができました。演武では途中、乱れたところもありましたが、最後、管長からの温かいお褒めの言葉をいただいて、更に精進したいと素直に思うことが出来ました。
次に向かった達磨堂への道のりは大変長いものでした。元々、今回の旅行への参加を躊躇していたのも、体力不足で登頂できないかもしれない、という不安があったからでした。実際に階段はきつく、心拍数も上がり、自分の身体の重たさをひたすら恨む道中となりました。しかしながら私より年長でいらっしゃるある参加者の方が、足の調子が悪いにもかかわらず、はあはあと息を切らしながらも、加減をすることなく心を集中して登っている様子に心を打たれ、私も挫けてはいられないと、その方の後を追いました。後ろにはいつも秦先生がいらっしゃいました。私たちをせかすことなく、優しい言葉をかけ続けてくださいました。
下山後、精進料理をいただくために食堂入口で全員が揃うのを待ちました。時間になり中に入ると、外部から想像できないような厳かな小さな空間があり、そこに飾られた立派な書に目を奪われました。更に進んだ頃、ちょうど時間を迎えたらしく、大空間に沢山の僧侶の読経の声が響き渡り、その圧倒的な宗教的雰囲気に感激しました。日々の作法を長く繰り返し続けることで生まれる、変わらぬものの力強さを感じました。気功の練習も同じなのかもしれません。頂いた精進料理は、とても丁寧に育てられた野菜を、力強く調理した印象を受けました。期待以上の美味しさでした。
少林寺内で数々の一級品の書をたくさん拝見するという贅沢な経験もできました。日が傾くころには、塔林に到着しました。ちょうどその時、少林寺の僧侶の方々が整列して塔林に向かってこられ、一日の終わりのご挨拶と思われる、歴代の管長の方々への読経の場に遇することができました。
翌日は3人のグループで龍門石窟を見学しました。ガイドの朱さんは親切な上に大変知識の豊富な方で、何の不便も感じることのない観光ができました。大仏龕の廬舎那仏を始めとした仏像、仏塔、石碑の美しさは、今まで見た世界遺産の中でも最高のものの一つと言えると思います。
他にも、期待以上のすばらしい経験は書ききれないほどありますが、思いもがけないことも起きました。ある晩、急に体調を崩し高熱を出してしまいました。朝を待って、他のメンバーに氷を頼んだところ、連絡を受けた秦先生がすぐに駆け付けてくださいました。状況をみられ、ホテルに必要な漢方薬の手配をされ、そして何の迷いもなく外気調整を始めてくださいました。その後、恐れ多いことに、何かあった場合心配なのでホテル内で待機したい、とのご提案をいただきました。実は外気調整の後、もうこれ以上悪くなることはない、と直感できたので、後はひたすら安静を心掛けました。外出される先生やグループメンバーと確実に連絡を取る方法も用意してくださりました。指導員コースに入り約2年半がたち、ちょうど来月からは外気調整の授業が始まります。まさにこのタイミングで病人の立場を経験し、秦先生の外気を受ける機会を得ることとなりました。驚くほど素早いご判断をされ、合理的な行動をとられるそのお姿の奥底には、人が健康で幸せに生きられることを願う、深い愛情がおありなのだと、床に臥せながらも深く感じ入りました。この思いもがけない経験は、今後の指導員コースの修得に活かせることと思います。
忘れられないものは他にもあります。私を心配してくださった参加者の方たちが、優しいお味の緑豆やナツメのスープ、数々の軽食や飲み物を持って代わる代わるお見舞いに来てくださいました。不調の立場の者にとっては、心を寄せていただけることが、こんなにも励ましになるのかと気づかされたのも有難い経験でした。このような心優しい方たちだからこそ、少林寺の気功や武術を謙虚に学んでいらっしゃるのだなと感じ、これからもたくさんのことを教えていただきたいと思いました。
今回の旅行の全ての経験が、少林寺の禅・武・気・医の学びを深める機会となったことに心から感謝したいと思います。