マインドフルネスとは、言い換えれば「心身の増強法」であります。なぜなら、少林寺武術の「型」の練習は、最初から簡単にはできません。継続して実践していくことにより、少しずつ出来るようになります。それは「型」が上手になったという表面的な部分の変化もありますが、同時に集中度が高まり、身体が整ってきたからこそ、少林寺武術の動きが出来るようになったという「証」であります。
なお、少林寺武術のすべての「型」は、強靭な肉体でなければ出来ません。さらに高レベルな段階になればなるほど、強い心が必要となります。
少林寺武術の最高レベルは、「禅武如一(禅と武は一つになる)」です。そして心身の強い状態となります。より具体的に言いますと、少林寺武術の「型」の練習は、瞬間的な動きとスピードの速さが求められます。例えば、60kg体重の男性が通常歩く場合、自分の体重を支えながら歩きます。もし走って、そのスピードが1秒で8m進むとしましたら、1時間で約28,800m(60秒×60分×8m)となりますね。さて、この1時間で歩く距離(28,800m)を瞬間的移動したとしたら、どうなるでしょう?60kgの体重にかかる衝撃は、(想像しただけで)ものすごいものになるでしょう。身体的構造として、筋肉、骨などがしっかりしていて、バランスよく、また均一且つ一定の強さを持っていれば動かせることでしょう。
少林寺武術の場合、身に付けるスピードは、自動車が発進して加速し続けるというような動きではなく、瞬間的に力が入りスピードが出たり、急にスピードを止めたりします。ですから加速度や減速度は強いものです。もし自動車を運転してエンジンをかけて、すぐにアクセルを踏んで一気に80km、さらに100kmと加速したり、今度は急ブレーキをかけて止めたりしたら、どうなるでしょうか?完全にいかれてしまって故障してしまうことでしょう。普通、こんな運転をしたら、事故をして終わりですね。大抵の交通事故はこういったことが原因でしょう。こんなふうに動く自動車は、スピードを出してぶつかり、そして止まるのです。その時の人間はどうなるか?自動車は?・・・自動車は大破し、運転手は怪我、もしくは死に至ることでしょう。この根本的な原因は、急な加速(または減速)によるものであります。
私たちの少林寺武術の高レベルな練習ともなれば、幾度も加速や減速を瞬時にチェンジさせて、行っています。身体のあらゆる部分が、瞬間的にスピードを出したり止めたりと、繰り返しされているのです。そのため集中度は高められ、柔軟な動作が可能となるよう必要な身体能力も高められていくのです。まるで事故を起こしてしまう自動車のように、力(パワー)は脚(足)や腰、そして腕(手)などに瞬時に伝えられて動いていくのです。
また自動車は前後の動きだけで、左右には動きませんが、人間の場合、前後、左右、さらに上下にもスピードを出して動かせます。(中国武術映画のアクションのように)飛んだり、跳ねたりという動作が実際にあり、また下半身も膝を曲げて腰を下げ、「馬歩」、「弓歩」、または「休歩」などの脚の姿勢から、身体が瞬時に動いていくのです。この状態で身体面は、「全身統一(上下、前後、左右へとバランスよく動かすため一体となる)」されるのです。そして、その動きは、心の動きを表すように「心身統一(心と体を一緒にさせる)」されるのです。
このような動作を可能にするために、相当な全身の統制を図り、身体能力を高めていく必要があります。厳しい練習でありますが、その結果、心身ともに強くなることができるのです。これらのことが示しているようにマインドフルネスの高級なレベルと同様であり、また高いレベルな「心身増強法」と言えるのです。
これまでの説明は、主に「型」についてでありましたが、少林寺秘伝七十二芸の実践でも同じ効果が得られるのです。私たちアジア人は、他の人種(欧米人など)と比べて背が低いですが、一般に腕力も数十kgしかありません。しかし、少林寺武術の練習をしていけば、腕や脚の上下や左右などへ動きが何百kg、時には1,000kg以上と力(パワー)が生まれるのです。
さらに少林寺武術の技には、「一指禅功(左右各一本の指で逆立ちになり、バランスをとる)」というものがあります。通常、人間の指一本には、どれくらいの重さが耐えられるのでしょうか?「一指禅功」ができるようになると、全身の重さが、両手各一本の指にかかります。細い指が全身を支えていますが、指先は真っ直ぐになっているわけではありません。実際には、少し曲がっている(滑らかなカーブを描いている)状態になっています。指の関節には、非常に加重されていますが、とても集中した強い状態により、体重を支えているのです。
昔の言い伝えですが、“一本の指で牛を殺す”というのがあります。牛の皮は非常に硬く破れにくいですが、簡単に穴が空いてしまうのです。また陶器やガラス製の瓶など指一本のスイングで、粉々にしてしまうほどの威力が修業により、可能でありました。また指以外にも、手、脚、頭など全身のあらゆる部位を強靭にして、超常能力を高めていくことができ、強い心身に築いていけるのです。
少林寺武術は、「武」の概念だけではなく、実践によって、「健康」になるため、マインドフルネス高級レベルの「心身増強法」となるのです。