今回のNHK(武井壮氏の少林寺修行の旅)番組の中で、メインとなる内容は「少林寺武術の型」ですが、武術の基礎を習うために中国最大の武術学校〈塔溝武術学校〉へ行きました。実践できる日程は、撮影行程上、基礎練習を2日間で行われました。最初に練習した内容は、武術の基礎である「五歩拳」、「站椿功」や「馬歩」の実践でした。その他、弓歩、歇歩などの歩型や動かし方、腕のところの掌法、拳法、体の身法は、体には一番「基礎」の練習が必要です。
こうした基礎をしっかり行って、できるようになってから「型」に入るのです。ですから本来、基礎鍛錬には相当時間を要するのです。中には数年かける人もいます。
番組内において、メインで登場する(芸能界唯一のスポーツマンである)武井荘さんが実践しました站椿功の馬歩の時、相当辛い思いをしていました。いくら“スポーツマン”と言えども、これらの訓練は普段行っていません。通常、スポーツなどの運動は筋肉を動かしていきますが、站椿功や馬歩はまるで馬にまたがっているかのように、じっと動かず同じ姿勢でいるのです。難しい站椿功(低位站椿功)になると、椅子に座ったような状態(膝が90度になるくらい、腰を落とす)で姿勢を保ちますから初心者にはとてもきつい練習になります。しかしこの基礎訓練こそがとても重要なのです。(これについては少林寺武術・気功に限らず)たとえば相撲で力士が勝負の時の構えでも、まるで站椿功のような姿勢になりますね。また日本の武道(空手や合気道など)でも同様の構えがあります。膝を曲げ、重心を下げるこのような姿勢をいたしますと「下丹田(臍の下)」に気が集まるのです。そのため站椿功を実践するとしっかり丹田に気を集め、身体の芯から力を発揮できるようになるので、とても重要なのです。
基礎の鍛錬をしっかりしないと「型」の動作に影響がでます。また身体機能として「自己免疫力」が低下してしまい、風邪を引きやすくしてしまいます。そのため基礎をおろそかにしてはならないのです。
少林寺武術の「型」については、(前回の“今日の言葉”でも説明いたしましたが)一つ一つの動作に意味があります。少林寺の型をしっかり身につければ、身体のあらゆる能力面において向上させることができます。身体の動かし方や筋肉の使い方、また力(パワー)の出し方など、さらに正しい動作方法を練習していきます。馬歩や弓歩で衝拳(スピードを伴った拳)、進拳(前に出す拳)を出すなど、すべて動きには意味があります。たとえば拳を出す場合、単にパンチを出すというレベルではなく、馬歩から弓歩の型に移り、そしてパンチを出す。実は馬歩から弓歩に変わる時、脚は回転させ、その力を利用して力(パワー)は①脚から腰、②腰から肩、③肩から拳へと力が伝わり、パンチの威力が最大に発揮されるのです。その際、身体は合理的に動いていきます。特に「少林寺武術の型」は、連続した動きの中で流れていきますが、一つひとつの動作の中に「集中」させる部分があります。一つの動作が終わったら止める、そして「集中」させる時、意識すべき一点のために動き、力を集めます。全身から生み出す「力」、そして「気」は、一つの焦点(明るい光が集まり一つになって、一点になれば”レーザー”になる)のようにさせるのです。少林寺の武術の動きには、この光が一つに集まり一つの焦点となるように「集中」させる動作があるのです。〈動作の意識〉を高めれば、たとえ小さい体の人であっても大きな力を出すことが可能なのです。
また「型」には攻防のため、その動きに様々な意味がありますが、表面的な動作だけではなく、〈身体面〉では「全身統一(上下、前後、左右へとバランスよく動かすため一体となる)」されるのです。そして身体の動きは、心の動きを表すように「心身統一(心と体を一緒にさせる)」されるのです。なお、体を動かす場合、イメージは動作の意識に集中することが大事です。集中できれば体の動きは、自然と自分の意識になります。動きが生きてきます。呼吸も合わせれば、さらにレーザーが強まります。
以上の訓練のため、「型」はたくさんあるのです。
さらにその「型」の中には、実践の技もありますが、体(肩や腰など)の使い方や力の出し方、特に全身の力をある箇所(腕や脚など)に出すためには「型」の練習が大事です。
これらは武術の「型」の効果ですが、同様に少林寺気功についても言えるのです。なぜかというと、少林寺気功は元が少林寺武術であり、作りだされただからです。ただその動きは、ゆっくりであることが特徴です。そのため動作の中で身体能力を高めることができるのです。身体がバラバラに機能させるのではなく、全体性(一体となった状態)の動きができるようになれば、優れた身体を持つことになります。また「心身統一(心の意識と体を一つにさせる)」すれば、身体能力や素質も増々高まり、心身ともに高いレベルになります。そうなれば普段行っている運動や労働(仕事など)、あるいは身体能力と自己の知(潜在能力など)も高めていけるのです。さらに身体面に大きな変化をさせます。医学的分野においても、循環器系や内分泌系に関しても良い検査データが報告されるなど、少林寺気功の練習を続けていけば、様々なプラス要因のことが生じます。
嵩山少林寺の周辺には多くの武術学校がありますが、“少林寺”は少林武術・中国の武術の最頂点の存在であります。
現代(文化大革命後)において、武術が自由に身につけることができるようになると、中国全土に広がり始めて、中国にはたくさんの流派が生まれました。しかし、少林寺の武術学校の数は、60~70校とあり、最大数です。その中で一番大きな武術学校は、3万人以上も生徒がいます。(今回、番組で訪れた学校です。)その学校には3人の校長がおりますが、私の兄弟のような存在(先輩と後輩にあたります)です。
そんなことから、今回の番組取材等も私の一言ですんなり「OK!」となりました。これらの武術学校には、武術を習うために中国の各地から若者たちが集まり、約1年間に一回、家に帰っていきます。主に習う内容としては、少林寺の「型」や少林寺硬気功です。そのため、“少林寺秘伝のもの”や“レベルの高い気功”などは教えられません。ただ武術学校のトップ3に入るような大きな学校では、少林寺のレベルの高い硬気功なども教えています。(なお、当協会で指導している少林寺気功の内容は、どこの武術学校でも教えることができないものです。)少林寺内に伝わる武術や気功は、私以外に昔や今の管長、またその系列の方たちから習っている以外には、誰も知ることができないのです。
今、嵩山少林寺周辺の武術学校の生徒数はかなりの数です。これは中国の国内でみても、また世界レベルでみても、武術を習うために多くの人が集まってくるようなところはないでしょう。中国も文化大革命以前には、不景気がずっと続いていました。その当時から武術学校はたくさんありました。しかし通常の学校より、かなりの高額の授業料でした。それでも多くの人から、他の(一般的な)学校へ行くより就職に有利であるという点から、武術学校に修業する人もいます。多くは何か一つでも“技術”を身につけて自信をつけたいと頑張っています。心身を鍛える目的としても多いです。
今回の番組では、中国武術学校の方々への取材もあります。また若い武僧も武術学校からの出身の人もいます。その方への取材もあります。
皆さん、どうぞお楽しみにして下さい!