この度、皆さんにはNHK・BSプレミアムの〈武井壮氏 少林寺修業の旅〉番組(1月30日の午後7時より放送)をご覧になって頂けたと思います。
その日は当協会の少林寺武術教室がありましたが、この教室の皆さんと一緒に、友人の自宅でお食事会をしながら番組を見ました。教室の時間でもありましたが、“特別授業”といたしました。この番組では少林寺武術の基礎、少林寺武僧による七星拳や五歩拳、さらに一指禅功の演武がありました。それらの演武を見ながら私が解説をいたしましたので、皆さんにとって良い勉強になったと思います。また番組はBS放送だったため、誰もが見られるわけではありませんでしたから、こうして一緒に見ることができたのは、とてもすばらしい機会だったと思います。
今回、NHK番組スタッフには大いに感謝しています。中でも番組ディレクターであるUさんにより、企画から編集までしていただいたわけですが、少林寺や武術などのことはまったく知らなかったのに、番組のため、とても時間をかけて調査してくださり研究していただきました。また私の本「嵩山少林寺秘伝(禅・気・武の源流)」を買ってお読みになって知識を高められました。そうした努力の甲斐があって、企画から撮影、そして編集までの作業が滞りなく進められたので、とても良い仕上がりになっておりました。
この番組時間は60分間でありましたが、伝えたいことが膨大にあり、たくさん撮影した映像を上手に編集され、視聴者に分かりやすく表現されていました。私自身、これまでたくさんの少林寺に関するテーマの番組よりも、広く深いもの(少林寺歴史的観点や実状、現代における少林寺の姿、アプローチの方法など)であり、多方面から関心を高められる内容となっておりました。
それから番組のメインキャストであるタレントの武井壮さん(陸上競技、十種競技の元日本チャンピオン)は、少林寺に対する大いなる憧れと少林寺修業への熱意がありましたから、現地での修業姿勢は立派でありましたし、その成果があったと思います。なお、今回は私自身が同行し、少林寺の管長に直接交渉等をいたしましたが、番組に出演をして頂いた少林寺武僧の方々、特に高僧である延開さん(私の後輩)に直接指導にあたって頂いたこと、さらに武術の基礎を学ぶために訪れた中国最大の武術学校(塔溝武術学校)の3万5千人の中の最優秀クラスとトップクラスの教師(コーチ)のすばらしい方々に出演して頂いて撮影できたのは、とてもすばらしいことでした。
もう一つ、今回は幅広い観点から少林寺のことを伝えて頂いたと感じております。武術に関して、「少林寺秘伝72芸」のことは触れていませんでしたが、以前はせいぜい少林寺の「型」を紹介する程度の内容でした。それが今回の武術の紹介では、「七星拳」や「棒」、そして「五歩拳」など、短い放映時間にも係わらず、それぞれ「型」の動きを示していただきました。武術についても、以前とは増して深い内容の出来であったと感じています。さらに「禅(坐禅)」についてのお話しや体験、そして練習風景もありまた。そんな一例として、掃除ひとつの中にも「禅」の修業の要素があるのです。特に理解しづらいのは、少林寺における「氣」に関することでしょう。「武」、「禅」、そして「氣」の3つがそろえば、少林寺の文化、さらに真髄を全面的に表すことが言えます。(今回の番組でも映像及び解説の中でしっかり示されていました。)
昨年12月、NHK番組の撮影時、嵩山少林寺はとても寒い冬でした。カメラマンや撮影スタッフの皆さんは厚着で進行していきました。(私も厚着でいたくらいです。)しかし厳しい寒さという状況でありながら、武井壮さんは頑張って“薄着”で修業しました。誰もがよく頑張りました!中でも武術学校の朝、非常に風も吹いていて、マイナス3~4°の状況で撮影でした。それでも良いものを作ろうという気持ちとスタッフの熱意が伝わってきました。時間もかけ、妥協はありませんでした。(制作にあたっては、日本の場合、中国と比べ3倍も多く撮影し、時間をかけて編集していくそうです。)そのため編集作業も大変だったと思います。私自身が感じたのは、日本人のモノづくりへの「質」の高さ、真摯に取り組む姿勢、手を抜かない仕事ぶりにはとても感心いたしました。やはり仕事への情熱により、良いものができるのだと思います。
(秘話その1)少林寺のお坊さんからこんな質問をされました。「秦先生は少林寺武術・気功のすべて知っているのですから、なぜ直接先生からではなく、少林寺で修業ということになったのですか?」
皆さんもそう思うでしょう。しかし今回の目的の一つとして、「少林寺」での撮影が挙げられます。今の私は少林寺から離れ、少林寺武術や気功の普及のため日本におります。私が指導していたら、少林寺に行かなくても良いことになってしまい、日本で撮影して終わりとなってしまいます。ですから少林寺を紹介し、現役僧侶から指導していただくということが、番組の企画として望ましいと思いました。実際にすばらしい内容になり、広く深く少林寺をお伝えできたので、とても良かったと思います。
(秘話その2)もう一つ、今回の番組をご覧になった視聴者より、もしかしたらこんな質問があるかもしれません。「秦先生を紹介する部分で、『嵩山少林寺第34代継承者最高師範』という肩書がありませんでした。」
確かにご覧になった方はそう思うでしょう。しかし番組に出演している武井壮さん、そして少林寺の僧侶たちが出ている中、私の肩書として第34代継承者最高師範と明記されるより、『全日本少林寺気功協会 会長』となっているほうが自然であり、理解しやすいだろうと判断したからです。また指導のために出演していただいた延開さん(少林寺高僧)も特別な継承者の名前などでは紹介されませんでした。(もちろん少林寺内としての肩書を持っていますが、一般の人には分かりません。)ですから私の『嵩山少林寺第34代継承者最高師範』という高位の紹介があったら、指導する立場の延開さんが主役ですから、全体性を考慮した上で、(私はあくまでも付属であり、)主役(延開さんを中心に現役の僧侶が武僧集団として活躍する)に影響がないようにしたほうがいいと思いました。
今回の番組等に対する質問等がありましたら、どうぞ当協会にお問い合わせくださいませ。
さらに番組内容がとても良かった場合には、どうぞ番組製作者であるNHKにご連絡して頂ければと思います。関係スタッフの皆さんも大変喜ぶと思います。