去る1月30日、NHK〈武井壮氏 少林寺修業の旅〉番組の放映を当協会の少林寺武術教室の皆さんと一緒に見ました。この番組はNHK内の評価はもちろん、視聴者からも大変評価されたとのことと聞きました。これまでもNHKの番組において、今回が初めてというわけではなく『少林寺』をテーマとして企画から取材や撮影したり、また『武術学校』なども同様に取り上げられたことがあります。そのたびに私や全日本少林寺気功協会の会員の方も少林寺に関する番組を見てきましたが、今回の内容が一番伝えるべきことをまとめていて、とても良かったと思います。
今回(中国において“少林寺”をテーマにして、少林寺のお坊さんなど同じような人たちに対して取材や撮影を進めていったわけですが)のように、日本の制作会社によって、なぜ違いが出たのでしょうか?同じ場所に行き、撮影してきたものをただ映し出しただけの映像等はあくまでも【表面的】なものです。それをいかに自分たちが思い描いているものに編集していくかどうかで、良いモノにも悪いモノにも変わってしまうのです。実にその制作に係わっている人たちがどんな気持ちで作品を作り上げていこうとするかという心ひとつで、結果が変わり、またどう評価されるのか、評判になるのかと分かれるところであります。
さらに今回評価された一要因として挙げられるのが、メインで登場いたしましたタレントの武井壮さんの人物像でしょう。彼はタレントとして有名なだけではなく、芸能界唯一のスポーツマンであり、特に陸上に関してはNo1の実力を持っており、陸上競技や十種競技の元日本チャンピオンの方です。しかも今でも現役で通用するほど体力を維持するために、様々な工夫をしたりして頑張っています。新しいことにも積極的且つ新鮮な気持ちで、真剣に取り組んでいく姿勢でいらっしゃいます。そして自己を見つめ返し、自分の不足している点については、しっかり反省をして行動(修正したり、再度挑戦したり)に移しています。そういう武井さんはタレントの中で間違いなくトップレベルの肉体的能力の持ち主と言えます。
今回の修業において、武井さんは少林寺武術を習う時、自分の身体的不足点について、それを正直に受けて、しっかり感じて見直していきました。このような反省と行動について、とても素晴らしいことであると思いました。
大抵、有名人の方は自分の得意な分野のみで勝負しますから、不得意なことをしたり、マイナスな面を認めたりしないでしょう。ただそういう態度でいたのでは、人間的な進歩はいたしません。自分の良い面だけを強調しますので、足りないところは見せないようにしてしまいがちです。それでは永遠に人間として成長することはありません。しかし武井さんは違いました。私自身、一緒にいてすごくそれを感じました。さらに積極的な行動が撮影でも活かされた形となり、表現されたので評価されたのだと思います。
番組内容に関しても、全体的にメリハリもあって、とても優雅さも感じました印象がありました。少林寺1,500年の歴史をひもとき、壮大で価値のある文化、また雄大さにあふれ、圧倒される雰囲気の映像には、視聴者の方にも大変良く伝えられたと思います。
日常の中で、ちょっとある部分ができなくても、全体的に悪いことではありません。むしろそれをしっかり認識していて変えていこうとする心が大切です。(今回の武井さんのように)通常、何日もかかってしまうような少林寺の厳しい修業も、ほんの少しの心の持ち方で、見直しや修正等を行い、自ら解決をし、克服してしまうようなことができるのです。そうした積み重ねが人間的成長をさせて(武井さんのように)チャンピオンに登りつめることも可能にさせるのです。
私たち一人ひとりも「武術」や「気功」の修業、または仕事などにおいても、こういう心のあり方で進めていけたら、もっと道が広がることでしょう。現在のそれぞれの状況から「将来、自分はどうなる!?」と思うことが重要なのではありません。今、足りないところを認めて努力し、改善したり修正したりしていけば変わっていくのです。そう理解して行動することが一番大事なのです。せっかく良い素質を持っていても、自己の弱い部分や悪いところがそのままでまったく意識していなかったら「進歩」していく変化はありません。良いところばかり磨いて伸ばしていっても「成長」につながりません。ですから気がつき、習うべきところは、謙虚な心を持って受け入れていかなければならないのです。
私たち人間の心の性質において“最高の状態”とは、まるで「水」のような変化に適応し、柔軟性のある「心」であります。ご存知のように、水は表面の柔らかさによってどんな形にも合いますが、様々(狭くても、広くても、さらに曲がりくねっていても)な入れ物にもぴたっと入れることができます。それは環境に適応していると言えるでしょう。私たち人間も同様に、どんな状況にも合うように対応できる柔軟な心を持つことが必要です。さらに水は、大きな強い力を生みます。水の滴りは硬い岩でも穴を開けてしまいますし、波による浸食は地形をも変えてしまいます。さらにアメリカのグランドキャニオンのように巨大な滝が生み出す水の力(パワー)は、とても大きなエネルギーになります。この「水」の持つ柔軟性や大きく且つ強い力のように、私たちも信念を持ち、真実に見て感じとり、心をこめて誠実に行動していくこと。それが一番重要なことです。特に修業の場(教室など)では、そういう気持ちで実践していくことが大事です。そうすれば「身体」及び「精神」を変えることができるのです。
仮にTV番組企画で、中国北京にあるジェットリーの元所属していた少年団や武術学校に取材・撮影するなどとなれば、まず、その代表の方と連絡をとるということになります。その相手方とは初めてですから、いくら仕事とはいえ、こちらの期待どおりになるかは、お付き合いもないわけですからうまくいくかは分かりません。ですから実際には許可が下りませんし、たとえ許可がおりても現地で取材や撮影を進めて、企画通りにならないということも多いのです。
今の嵩山少林寺や武術学校は、基本的に世界からマスコミ関係からの取材に対して、少林寺は静かに修業する場として、芸能人などタレントが修業するような企画内容については、中止し許可をしないようになりました。ですから派手な演出や内容ではなく、落ち着いたもので正統な教えを伝えるような企画内容のみ許可をしている状況でありました。ですから私自身、NHKの番組企画を聞いた時、実施できるかどうか「厳しいのでは」と思いました。また中国最大の武術学校にも交渉を行っても、こちらからばかりではなく相手方からもいろいろ要求がありますから、通常はとても大変なことなのです。しかし今回はスムーズに話がまとまり、非常に順調にことが運びました。
本来であれば難しく大変な交渉事でも心から接して伝えていくよう行動をすれば、できないと思われることもできたりします。
なぜ今回、少林寺の管長に「許可」して頂けたのか?私が日本に渡り、これまでしてきた20年の実績を理解して頂いておりますし、少林寺のお坊さんも同様です。もしTV局から直接依頼をしたとしたら、許可されなかったでしょう。NHK番組の話も私が交渉したので、「許可」していただけたのだと思います。決して私が交渉したからとか、単に顔が広いからというわけではなく、これまでの“心からの歩み”を理解していただいた結果だと思います。ですから武術学校も同様に、心よく承諾していただけたのだと感じております。
どうぞ皆さんもそれぞれの生活の中で、役立つようになればと思います。仕事でも人間関係でも社会の中でも、心から真実を見て、誠実に相手に接していけば、成功に結びつくと思います。このたびの番組が放映された後、武井壮さんより、礼儀正しくお電話を頂きました。(NHKの関係者から電話番号をお聞きになったそうです。)またディレクターのUさんも最後まで編集作業に全力を尽くしていただき、全身全霊で取り組んでいただけました。まったく知らなかった少林寺のことを短期間で、より深く広くご理解して頂き、スタッフ一同一丸となって番組を作り上げていただきました。
番組が評価までされるすばらしいものになったので、本当に良かったと思います。