「站椿功」については、少林寺映画でも有名な型の一つですが、少林寺武術の修業に限らず、様々な武術(武道も含む)の流派においても鍛錬のために取り組んでいます。「座禅(静功)」も同様に多くの方が知っている修業の一つです。この2つに共通する点は、じっと動かない姿勢で行うという特徴があります。
さて、それではこういった修業にどのような効果があるのでしょうか?
站椿功を実践いたしますと、じっとしたままの姿勢ですから、練習していると非常に身体(特に足腰)はキツイと感じます。今年の1月に「NHK〈武井壮氏 少林寺修業の旅〉番組の放映の中で、メインで登場した(芸能界唯一のスポーツマンである)武井荘さんが実践しました站椿功の時、相当辛い思いをしていましたのを思い出します。その時、両膝を90°に曲げてやりましたが、1分間もできなかったのです。このことが示すようにいくら陸上選手のアスリートでさえ、キツイということが証明されたのです。(これは一つの例ではありますが)通常、身体の筋肉のつき方は、身体的構造上、陸上選手の必要な筋肉のつき方と異なります。そのため站椿功を実践しますと、とても辛く感じるのです。
少林寺武術の站椿功の練習をする場合、始めは120°(膝がほんのちょっと曲がっている状態)にして行います。時間はだいたい15分を目安に行い、慣れてきましたら30分、60分・・・120分と長くしていきます。さらに90°の姿勢で出来るようになりましたら、次は膝の上に(たとえば)100kgの石などをのせてもらい、保つこともあります。通常負荷を与えるために、レンガを両手にそれぞれ一つ、または二つ持って(腕はなるべく前に伸ばし)行います。今まで各々三つ持って行うというのは聞いたことはありません。私は各々二つ持って120分行いました。站椿功の効果ですが、武術や武道の実践の動きにはしっかりした下半身であるために“根”となる部分が重要です。すばやい移動の動作をしながら、相手を攻める、または相手から守るという連動がありますが、もし陸上選手が鍛えているような身体で行ったら、蹴り技をした瞬間にバランスを崩してしまうということになってしまうでしょう。
人の体は“上が重い”、“下が軽い”という状態ではよくありません。下半身が不安定になり、すぐ倒れてしまうのです。バランスを保ち、倒れにくい状態にしなければなりません。下半身が重く、充実した状態で安定させるように身体を強くさせるべきであります。いわゆる「上虚下実」の状態です。身体が安定していれば、低い蹴り技(ローキック)や站椿功を行っていても、非常に安定していてバランスを崩さずにいられるのです。さらに手や足が動いても“根っこ”が、地に着いているようになるのです。
私の指導している型に「七星歩」というのがあります。この意味としては、まるで100m走をしている状態からパンチを出しているようなパワーを全身に発揮させるというものです。普通であれば、そんな力を出してパンチをすることは絶対に無理なことです。実際に走りながらパンチをするということは、とても不安定な状態であります。しかし既に站椿功で鍛えている人は、走ると同時に足は木の根っこのように地に着いているのです。そして着いたまま走るのです。
さらに少林寺武術のパンチ力とは、たとえばボクシングのようなパンチの出し方ではなく、一つのパンチが生み出すパワー「足」からなのです。地に着いた足からパワーが上に伝わり、上半身へと、そしてパンチへといった動き(全身の運動)になります。ですからパンチ力より足にかかる力の方が強く、大きくなるのです。少林寺武術の練習では、馬歩から弓歩(またはその逆)への移動や転回して、同時にパンチを出すという方法があります。昔、少林寺の武僧の練習では、並べたレンガの上に立って行っていましたが、馬歩の姿勢からすばやく弓歩にすると後ろの足に力がかかり、一気にレンガが割れてしまうほどの威力がありました。実に站椿功をしっかりしていれば、こういう力が出せて、まるで両足は釘が刺さっているように絶対に動かさないのです。
もし台風の時、強風によって柱も木も頑丈であれば倒れませんが、しかし弱ければその柱や木は倒れてしまうことでしょう。その原因は(木であれば)、根っこの部分がどれだけ地中の深いところまで、生えて伸びているかどうかですね。浅い部分までしか根っこが生えていなかったら、すぐ倒れてしまうことでしょう。大事なことは、全ては根っこ(土台)がしっかりしていてぐらつきのない状態にして、初めて倒れない強さが生まれるのです。これらが站椿功の効果なのです。さらにしっかり練習を重ねれば、立っている状態で足は地に根っこが生えているようになり、強靭な姿勢から力(パワー)が生まれるのです。
そうして基礎が出来上がり、(初めて)パンチの練習などを行い、その効果が表れて行くのです。
站椿功のように体を動かさずに、実践することによって、気は「(下)丹田」のところに集まります。これは実際に行ってみると理解できます。さらに両手の上にレンガをのせたら、丹田のところがすぐ重く感じることでしょう。この姿勢によって、自然に丹田の位置に気が集まるのです。先に述べました「根っこ」は力(パワー)のことでありましたが、この丹田の部分(そして下半身)に「気」が充満していきます。
人間は年をとっていきますと、または病気になりますと、気は減り身体は弱まります。さらに心も弱くなり、気が上に上昇していきます。そうなると血液も上がります。しまいには、脳梗塞や心筋梗塞などを引き起こしてしまいます。
もし站椿功を実践すれば、気は自然と下がります。人間の心身の強さを表しは、気が必ず下がっていて保存されているのです。そして丹田と腎臓、そして背骨のところの「命門(ツボ)」のところなどに保存され、気は充満していきますと、五神心は強くなります。気も充満されて強くなりますと、身体のバランスも良い状態になります。実際に站椿功を実践したら分かると思いますが、体は辛いですね。しかしその辛さは、我慢ではなく練習を重ねてじっとしている状態により、気を育てているのです。気が増えて、次第に気と体とその時の意識は良性の意念になり、辛さを超えることができるのです。超えて、はじめてレベルがアップされるのです。そしてだんだん強くなっていくのです。単なる我慢をしているという状況ではありません。忍耐も越えられれば、心身ともに強くなります(“忍耐”というのは、まだ修業が足りないということであり、できるようになってくれば忍耐は必要ないのです。)。
さらに「座禅(静功)」をすることも効果があります。座禅は、じっと動かぬ姿勢で保ちますから、自分の【心】は自分にとって君主(国のトップのような存在)であり、しっかり中心にいて動かず(たとえば客人があっちこっちと動き回っても、主人は座っている状態のようなものです。)、さらに体中に指示や命令するのです。これらが心と体の仕組みになります。人間の心(精神)を座禅によって向き合うのです。心は根本的なところに、座禅によって向き合うのです。
座禅の実践では、第一に一つの事に集中していきます。それはイメージしていくことに集中させるということで、一つのことをイメージできたら、頭(心)の中で雑念は浮かんできません。普通、人は座って静かになると、頭の中にたくさんのこと(昔や将来のこと、仕事のこと、家庭のこと・・・)が思い出されます。そのため座禅中は、一つのことに集中していく必要があります。たとえば何人かいる中で、椅子がひとつしかない場合、誰か一人の人が座ってしまえば、他の人は座れません。何かに集中すればいいのです。しかし雑念がどんどん浮かんでくるという場合は、どういうことになるでしょう?一つの椅子に対して、ある人が座り、また別な人が座り、また別の人、別の・・・とスピードも速くなり、替わっていくような状態であります。もし、一つのことをイメージするとか、何か一つのことに集中ができれば、呼吸に意識して行えば、他の雑念は、一切はいってこない(入れない状態)のです。
心にとって、一つだけの集中ということは、これは「マインド・フルネス」の状態と言えます。さらに集中力も高まります。そのため、心が通常受けてしまう様々な刺激は受けず、心はとても静かになります。雑念(いろいろな思い、悩み等も)を浮かべないで流していく、または消していくようにします。心に何もなければ、何の作用することもありません。これは意識の訓練であり、繰り返して積んでいくと、常に心が静まるようになり、一つのことに集中する状態になって余計なものは出てこないのです。また訓練により、自分をコントロールすることができるようになり、さらに高まっていきます。
もし雑念が浮かんできたら、落ち着いて、ゆったりと深呼吸をして一つのことに集中していけば、激しい感情や悩みが出てくるようなことは、自然と無くなり消えていきます。そして消えてしまえば、自分の信念も強くなることでしょう。
上記の「座禅」については、あくまでも座禅をするにあたっての初心者のレベル(入門的な段階)でありますので、別の機会にレベルアップした座禅の内容をお話します。
アーカイブ
- 2024年11月
- 2024年10月
- 2024年9月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年4月
- 2015年3月
- 2015年2月
- 2015年1月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年9月
- 2014年8月
- 2014年5月
- 2014年4月
- 2014年3月
- 2014年2月
- 2014年1月
- 2013年12月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2013年9月
- 2013年5月
- 2013年1月
- 2012年11月
- 2012年10月
- 2009年8月
- 2009年7月
- 2009年6月
- 2009年5月
- 2008年5月
- 2008年4月
- 2007年2月
- 2007年1月
- 2006年12月
- 2006年11月
- 2006年10月
- 2006年9月
- 2006年8月
- 2006年7月
- 2006年6月
- 2006年5月
- 2006年4月
- 2006年3月
- 2006年1月
- 2005年11月
- 2005年8月
- 2005年7月
- 2005年6月
- 2005年5月
- 2005年4月
- 2005年3月
- 2005年2月
- 2005年1月
- 2004年11月
- 2004年10月
- 2003年4月
- 2001年10月
- 2001年6月
- 2000年10月
- 2000年5月