私たちの「心」というものは、なかなか落ち着くということはなく、常にいろいろな思いを巡らせています。周りの環境が変わったり、状況が一変したり、何かトラブルなどあったりすれば、すぐ動揺したり、もし病気にでもなれば落胆してしまったり・・・と、落ち着かないものであります。そんな時、頭の中では、どんどん雑念が浮かんでは消え、浮かんでは消えていくといったことが続きます。折角「座禅をしよう!」「座禅をして集中したい!」臨んではみたものの、実際には様々な“念”(たとえば、仕事や家庭のこと、また人間関係やトラブルを抱えていることなど)が浮かんでしまうことでしょう。
 もちろんこんな状態では、雑念ばかり浮かんで集中はできず、「座禅」をしているとはいえなくなりますから、その方法(自分自身の心を変えていく)を正しく行わなければなりません。
 そのためには日常生活の中で、意識的に修業やトレーニングなどをしていくということが必要になります。そして正しい実践を継続させていけば、必ず心は変わっていきます。ですから正しい方法を身に付けて、集中してトレーニングをしていき、雑念を無くしていきましょう。

 今回、皆さんにご紹介する方法は、当協会が行っている「指導員養成コースⅠ」の静功(入門の部分)の内容です。これらは約半年かけて学んでいきます。

 第一の方法(A法)として、呼吸を利用して、離(雑念を消していく)の方法で6つあります。
(1)数息・・・呼吸を数えていきます。
(2)随息・・・呼吸に集中していきます。
(3)止息・・・呼吸を止めます。
(実際には止められませんから、止める方向に持っていきます。)
(4)観息・・・自分の呼吸をただ観ていきます。観察していきます。
       (静かな状態になり、ひらめきが生まれたり、分からなかった
        ことが良く理解できるようになっていきます。)
(5)返息・・・自分の呼吸により、人間の原点に戻ります。生まれた時に戻
ります。
(6)浄息・・・呼吸により、きれいな状態をイメージしていきます。そして
浄(理想の自分)、浄化していきます。

 これらの方法は、あくまでも呼吸法でのためでありません。呼吸を利用して、自己のイメージにより、雑念を無くしていきます。
 
 さらに別の方法で、「三止三観」(B法)というのがあります。
(1)系縁止・・・雑念は瞬間的に様々なことが浮かび上がり、あっちこっちと頭の中で動き回ります。そういった念をまず一念にさせることにより、一つのことに集中することができます。やり方としては、体の部分の一点に集中させて行うことです。
(2)制心止・・・雑念は心から湧き出てきますが、その出てくる前に切ってしまいます。次から次へと出てくる前に切ってしまうのです。
(3)体真止・・・「今」という瞬間は、どんどん変化をしているように、体も常に変化をしており、それは本当の自分でもあり、本当の自分でもないと自覚しながら、雑念を切っていきます。
(4)空観・・・仏教の根本的概念の「空」の観点であり、すべて空の状態をイメージしていきます。
(5)仮観・・・現実世界を考えるのと同時に、現実を「空」と捉えていきます。外部表面的な形はあっても、内部は「空」としていくイメージをします。
(6)中観・・・無為法。

以上の最初の3つが「止」。残りの3つが「観」で「三止三観」の方法と言います。三止は、雑念を中止させる(止める)ということであり、三観は、その上にひらめきの状態、さらに悟りの方向へと持っていくものです。
 
 これらの方法は、「心のトレーニング」となりえるものであり、(元々、日本人は修業が好きな方が多いようですが)修業において、最初に行うこと(入門の段階で実践すること)は、雑念を無くすことであります。そうして少しずつ精神面の強化をしていくのです。
 本来、その修業が「悟りへの道」であれば、根本的な方法に従って進めていきますが、実際にはその実践方法は簡単なことではありません。通常であれば、大変難しいものであると実感することでしょう。それはお寺のお坊さんがしているような、静かな環境の中、外部と切り離し、社会との係わりから遮断した上で、時間をかけて座禅をしていくというのが理想で、一番の方法ではあります。しかし私たちが普通に行う場合、非常に忙しい日常生活の中で、毎日を生きており、またトラブルや諸問題を抱えて、心身ともにストレス状態になっており、寝る間も惜しんで頭を働かせていています。さらに心が常に揺れ動いており、毎日したいことというより、やらなければならないことが多すぎて、ストレス状態に陥ってしまっているのです。

 心を落ち着かせ、雑念を振り払っていくためには、以上の(ご紹介いたしました)12つ(A・B法各6つ)の方法を行っていきましょう。これらの方法は、簡単でシンプルなやり方(たとえば、鼻先に集中しながら・・・、下丹田に集中しながら・・・、ただ呼吸を数えていく・・・など)ではあります。毎日、継続して実践していけば、心の働きをコントロールすることができ、心のレベルを高く上げていくことができるのです。そうすれば、雑念も消えていくことでしょう。そして心が静まっていき、入静の状態に入ります。
 さらに訓練を進めていけば、日常生活の中でも雑念が減っていき、また浮かんでこなくなっていくのです。そのため物事に集中することができるようになっていきます。

 特にイメージして行うB法第3の方法であります「体真止」(初めて行う系縁止、制心止、数息、随息などは、基本的にそのやり方は技【テクニック】により、雑念を無くしていくという簡単でシンプルなやり方です。)から、「空観」、「仮観」、「中観」と続きますが、これらは技【テクニック】により、心法(心の方法)であります。なお心の中の思考や意識、また精心の面にも関わってきます。そのため、心のあり方の根本的から変わっていくのです。体真止から三観(空観、仮観、中観)により、心の中に、また全身の細胞に染み込んだら、自分自身が根本から変わり、慌てて行動したり動揺したりせず、雑念も無い状態になって、自分の心が自分の主人になっていくのです。

 どんなに世の中が変化していっても、心に余裕が生まれ、冷静に対応することが可能になります。身の回りからストレスを感じなくなり、余計なことに惑わされない心を持つことができるのです。
 ただしご紹介したこれらの方法の練習は、毎日実践していかなければなりません。決して初めから実践する時間を長くしなくても良いのです。最初は5分でも10分でもいいのです。集中力もまだない段階から長くしてしまうと、逆に辛いと感じてしまう場合があります。雑念だけで続けても疲れてしまうことでしょう。なかなかじっと座っていることも、きついかもしれません。
 それでも継続し、だんだん行っていくうちに少しずつ長く座れるようになり、集中していくことができます。そして集中力も増し、心のレベルも高くなっていくのです。さらに時間も、少しずつ伸ばしていくようにいたしましょう。

 これらB法各6つの方法は、慌てて6つを一緒に行ったり、飛ばしてやってしまうのではなく、一つひとつを約1ヶ月、時間をかけて(毎日行っていれば2週間くらいでも良いですが)じっくり実践していくべきです。一定期間、行ってから次に進んでいくというやり方でしていきます。一つひとつ特徴があります。その方法に対して、人それぞれ好みもあるでしょう。たとえば食事でも同じですが、ある人は天ぷらが好き、またある人は刺身、別の人はお寿司・・・と、また和食だけではなく、中にはフランス料理、いやいやイタリア料理の方が好きというように、好みは違います。そのため実践する方法も自分に合っている法、やりやすい法が出てくるでしょう。いずれその方法でしていくことを薦めます。様々な方法があるのはそのためであります。まずはしっかり一通り時間をかけて体験していき、その上で自分に合うものを見つけ出し、その方法を中心にして、トレーニングしていくことです。

 実践時間は、短くても良いのです。大事なことは時間より、継続することです。いきなり長い時間でやろうとしても、辛く自信が無くなってはいけません。短くても充実して行えるようにしていくことが大事なのです。少しずつ集中力がついていきますから、その後、だんだん時間も伸ばしていきましょう。方法も一つに絞ってしまうのではなく、いくつか(やりやすい方法を)やっていくようにしましょう。そして自分心から雑念を切り離していけるよう、実践を継続させていきましょう。
 是非、こうした方法を知識だけに留まらせるのではなく、体験して自分のものにしていくべきです。そして「雑念を無くした心」を持てる人間になれるよう努力し、実践し続けてください。