少林寺の僧侶は通常質素(しっそ)な食事をしています。では、正月などの大きな祭日を、同じように過ごすのでしょうか?唐の太宗や、則天武后、宋の仁宗、元のクビライ、清の高宗など、歴代の多くの皇帝達は少林寺を訪れています。肉類を使わずに、どうやって皇帝を接待したのでしょうか。
少林寺には、一年の中で様々な祭日があり、一般の中国人が行うように、春節(注:中国では西暦一月一日の正月ではなく、旧暦に従って正月を祝い、それを「春節/しゅんせつ」)と呼んでいます。)や、「元宵節/げんしょうせつ(注:春節の後で、行う行事。”灯篭/とうろう”を飾ります。)」、「仲秋節/ちゅうしゅうせつ(注:中秋の名月)」といった祭日を送りますが、その他に三つの仏教関係の祭日も祝います。一つは旧暦二月十五日で、これは「涅槃日(ねはんび)」と言って、お釈迦様が亡くなられた日です。一つは四月八日で、これはお釈迦様がお生まれになった日です。最後の一つは、十二月八日で、お釈迦様が悟りを開かれた日です。こうした仏教の祭日がある時には、一日中行事を行ったり、お経を読んだりして、いつもより忙しく過ごします。食事も少々良い内容にはなるものの、一般の人々のものよりは、やはり質素です。
中国人にとって一番大事な祭日は春節ですが、この春節を少林寺ではどのようにして過ごすのでしょうか?春節は旧暦の十二月八日から始まります。
旧暦の十二月八日は、お釈迦様が悟りを開かれた日であり、春節が始まる日でもあります。この日の早朝、朝の勤行(ごんぎょう=お経を読む、お勤め)の前に、お釈迦様の像の前に、六種類の生や乾燥した果物を置き、お供えします。この他に、「浴仏(よくぶつ)」という行事も行われます。これはお香によってお釈迦様に入浴していただくというものです。これは二つの意味があって、一つはお釈迦様が悟りを開かれたことを記念するという意味、もう一つは一年間たまった埃を取り除いてきれいにするという意味です。
この朝の読経や仏事といったお勤めの後、中国の一般家庭と同じように、「八宝飯(はっぽうはん)」または「臘八粥(ラーパーチョウ)」を食べます。これは、木の実や穀類、ドライフルーツが入った、結構おいしいお粥です。僧侶達はこの後春節を迎えるための準備を始めるのです。
旧暦十二月二十三日、夜の勤行(読経などのお勤め)が終わると、少林寺の全ての僧侶が「西寮房(せいりょうぼう)」に集まって「普茶(ふちゃ)」という行事を行います。普茶は一般の人々が行う、茶話会のようなものです。落花生や瓜の種などのドライフルーツや、リンゴなどの果物を食べながら、春節の品を購入する係の僧侶の報告を聞きます。続いて、当家和尚と典座執事が、春節のスケジュールについて報告を行い、具体的な仕事の分配と予定についても説明します。
二十四日から、三日続けて大掃除が行われます。大掃除はまず、仏殿の中にある仏像を清め、それから寺院の周囲も掃除します。次は二十七日から、ほとけ様にお供えする果物と春節の食事の準備を開始します。この時、中国で春節を迎えるのに欠かせない「対聨(たいれん=長方形の赤い紙に縁起の良い言葉を書いて、門の両脇に貼る。春節の時に行う)」や切紙細工(注:窓ガラスに貼って、春節を祝う)も作ります。12月30日の朝は、仏教行事から始まり、朝から晩まで一日中寺にある全ての鐘や法器を音高く鳴らし、それぞれのお堂に備えてある御椀を仏前に高く掲げます。大雄宝殿には大供というお供えが置かれ、その他のお堂には小供というお供えが置かれますが、大供は二十六の大きな御椀で、小供は六つの小さな御椀です。これらは皆、お釈迦様や菩薩さま、羅漢達が、少林寺の全ての僧侶達と共に新しい年の訪れを祝うということを象徴しています。お供えをした後、住持和尚は寺の全ての僧侶を率い、一つ人血の仏像の前に立ってお香をたき、「叩頭(こうとう=頭を地につけてする、非常に敬意をこめた礼)」をします。こうした行事のことを「普仏(ふぶつ)」と言っています。
大晦日の夜は、みなで「辞歳銭串」を食べます。これは、うどんとギョウザが混ざったような、ワンタンのような食べ物です。夜の勤行が終わったら、「辞歳礼」を行います。「辞歳礼」とは、弟子が師父(=先生)や師祖、自分より年長の僧侶に対して「叩頭」の礼を行い、その人達の健康と長寿を願います。同輩同士の間でも合掌をして敬意を表します。
春節の当日、早朝から朝の勤行を行います。寺中の鐘や太鼓を大きく打ち鳴らし、同時に爆竹を鳴らします。朝の勤行が終わったら、「拝年活動」が始まります。これは「辞歳礼」と基本的には同じですが、お祝いの言葉が「あけましておめでとうございます」に変わるだけです。朝食にギョウザを食べたら、僧侶達はみな大雄殿に集まって、また読経(どきょう)をし、各仏殿の仏像の前で仏教行事と読経を行いますが、これは「普供(ふきょう)」と呼ばれています。
正午になると、寺中の僧侶が集まって食事をします。しかし、一つのテーブルが八人以上になることはありません。そして、一つのテーブルに少なくとも十種類の料理が並びますが、この時の料理は、一年の祭日の中で一番豪華なもので、料理自慢の僧侶が腕を振るいます。野菜や湯葉を使った一般の精進料理もありますが、以前の回でもお話したように、普通の肉や魚料理にしか見えない、凝った精進料理も作られます。海老やあわび、イカにしか見えない、そうした料理の数々は、見た目もよく、形も似ていて、またおいしいものです。
正月の二日目、少林寺の僧侶は朝に全員が「初祖庵(しょそあん)」へ行って、挨拶をして礼をし、「塔林(とうりん=少林寺歴代の僧侶の墓地)」でお香をたいて、叩頭の礼をします。これは、禅門の祖であるダルマ大師と先達(せんだつ=先輩)の恩を忘れないという意味があります。正月五日には、「行圓供礼(ぎょうえんきょうれい)」が行われます。これは少林寺の全僧侶が、仏像に供えられた正月のお供えを全て下げるというもので、これが終わると春節の全ての活動が終わります。他にも色々な行事がありますが、やはり春節が一番賑やかでです。
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